北股川支流遡下行(藤十郎沢・文四郎沢・鮎倉沢)

10月11日から15日まで休暇をとって、8日から16日までの間に4日間の山行を二本実施する予定だったが、前半は雨に降られて石川川に転進したため、4日間の計画の一本だった都沢と大ヤット沢は来年に持ち越すことになってしまった。

13日(曇)

8日、9日に続いて今回の長期休暇で北股川出合を目指すのは三度目となるが、ようやく目的のルートを遡下行することができた。

前日の雨で増水しているかもしれないので、おういんの尾根から支尾根を下降して藤十郎沢出合へアプローチすることも考えていたが、赤谷林道から飯豊川を見下ろすとほぼ平水に戻っているようである。しかし、前日から一向に気温は上がらず11月並だし、一度尾根からのアプローチも視野に入れてしまった後とあって、泳ぎを要する本流遡行を躊躇する気持ちもぬぐい切れないまま、北股川出合を目指す。

北股川に架かる橋の手前のトラロープがあるところを下降して北股川に入渓する。8日の朝よりも若干水量が多く感じられるが、ほぼ平水に戻っていると言えるくらいだ。入渓点付近で左岸に渡り、プールの手前で右岸に渡って左へ曲がった後、ゆるやかに右にカーブしながら進むと観音滝が見えてくる。巻き道に直行して観音滝を越え、次の深場は右壁沿いを股下まで浸かって通過する。ここから彦兵衛沢を過ぎるまでは河原が続く。彦兵衛沢出合の50Mくらい下流には、左岸にかなりの増水にも耐えうる台地がある。

ここで右岸に渡って左へ曲がる

彦兵衛沢を過ぎると、両岸の壁が切り立ってきてゴルジュとなる。しばらくゴルジュを行くと、釜を持った1M滝が連続しており、最初の滝を右の段丘上の岩盤から越えると、滝上の釜は泳がないと越えられない。左岸の岩場を登って高巻きを試みるが、上部はかなり悪く、結局8月同様に釜の左壁を首まで浸かってへつることにする。気温が低い上に、曇りで陽も差していないので寒いことこの上ない。次の1Mはそのまま左から越える。すぐに瀞があり、ここも左壁に小さく尾根状に張り出したところを短いながらも泳ぎを強いられる。ゴルジュが左、右へと屈曲すると青滝が見えてくる。

釜を持った1M滝が連続する

轟音を響かせて深い釜に一気に落ち込む6M滝から遥かに奥まった所に20M滝が懸っている。6M滝の釜の手前で右岸の草付スラブを登って樹林帯に取付いて、青滝の落ち口に向けて下降気味にトラバースする。青滝を越えると、ブッシュが沢床に届いた穏やかな河原となって、左へと緩やかに曲がっていく。

青滝

やがて両岸の壁が20Mの絶壁となり、左岸から滝を懸けて流れ込む二本の沢を過ぎる。やや開けてきたところに5Mの滝が懸るが、左岸のブッシュ生い茂るリッジから小さく巻いて滝上に降りる。すぐに釜を持った8Mの斜滝が続き、今度は左側のスラブ壁を直登して滝を越える。草付スラブに挟まれた河原混じりの流れをしばらく進むと、藤十郎沢の出合に至る。

草付スラブに挟まれた流れ

藤十郎沢は出合に4Mの滝を懸けており、すぐに16M2段の滝が続いている。4M滝は左右どちらも登れそうだが、右側が簡単そうだ。16M2段は黒光りした壁で、手がかりも少し足りなそうに見える。濡れたくもないし、右から簡単に巻けそうなので、草付スラブからブッシュ帯に取り付いて巻くことにする。草付スラブも、下部の4M滝の壁に草が生えたような感じで、しっかりしたスタンスが得られるので簡単だ。ブッシュ帯の木登りで高度を上げていくが、下から見た感じよりも下降しやすいところがなく、幾つかの小滝をまとめて巻いたところで沢身に降りた。

藤十郎沢出合の連瀑

しばらく小滝を連ねたような流れが続き、800M辺りに来ると両岸にイタドリが目立つようになる。850Mでは両岸から枝沢が入り、本流には10M滝が懸っている。直登は難しそうで、右岸の枝沢を少し登った所からスラブを登り、草付をトラバースして滝頭に立った。右手に湧水があり、さらに10M滝を二本連ねた支流を分ける。

小滝を連ねたような流れ
10M滝

両岸が幾分立ってきて、5M、3Mの滝を越えると(3:1)で枝沢を分け、さらにミニゴルジュに懸る3MCSを右から越える。右に屈曲すると12M滝が谷を塞ぎ、直登は難しそうなので、少し戻って左岸のルンゼからブッシュ帯をトラバースする。12M滝の上にはすぐに10M滝が続いていたので、まとめて巻いて10M滝の上に降りた。それぞれ2M、3Mの滝を擁した小ゴルジュを抜けると、990Mの二俣となり(1:1)で水流を分けている。右岸には小さなテント一張分くらいの草の台地があり、ここで泊まれば快適だろうと思いつつも、後日の行程を考えて先へ進む。

深い釜がある5M滝
12M滝
快適に泊まれそうな台地

沢は源頭間近の雰囲気になってきて、草付斜面を割って流れるようになる。幾つかの4M~6Mの滝を登ったり、小さく巻いたりしなが登っていくと、1200M付近で水が涸れて急峻な草原状の窪となる。草原状からブッシュ混じりになってきて、わずかにブッシュを掻き分けると稜線に出た。

沢は細い窪へと分かれていく
源頭近くなっても5M前後の滝が続く
尾根から振り返った藤十郎沢

稜線を藤十郎山へ向かって進む。藪はそれ程煩くはなく、うっすらと踏跡も出てくる。25分ほどブッシュを掻き分けながら進むと、藤十郎山の三角点に着いた。

藤十郎山の標柱

藤十郎山東面の急峻なブッシュ帯を文四郎沢目指して下降していくと、藤十郎沢源頭と同じような草原状の浅い谷を割るように窪が現れる。涸棚を巻いて、左から合流するルンゼに懸る涸棚をクライムダウンすると、1175M辺りで水が出てくるが、藤十郎沢のように顕著に水が湧いている様子もなく、水流は太くなる気配もなく涸窪へと戻ってしまう。

文四郎沢源頭の窪

3M滝を懸垂、2Mをクライムダウンする頃には17時をまわり薄暗くなってきた。次の滝は10Mくらいで2段になっているようだったが、暗いので落差の推測もかなりいい加減である。左岸のブッシュ帯を斜めに下降していくとルンゼを渡り、一旦渡ったルンゼに戻って少し下ると5M滝が懸る。クライムダウンできそうにも見えたが、暗くて確信が持てず右岸を巻いて降りる。

滝下に土と石が堆積した凸地があり、整地すればなんとかテントを張れそうだったので、突貫工事の後ここにテントを張った。滝にはちょろちょろと水が流れている程度なので、飛沫を浴びることもなく、水も得られて好都合だった。

14日(晴)

テントを出て目の前の滝を見上げてみると、明るければ問題なくクライムダウンできる簡単な滝だった。流れに沿って10M程下るとすぐに滝が懸っており、クライムダウンはできそうもなく手頃な支点もない。滝まで戻って右岸の草付を下降していくと、恐らく最初に下降していた涸沢に出た。泊まった枝沢と合流したあたりから、ようやくまともに水が流れ始める。

幕場に隣接した滝
幕場直下

すぐに4M滝が懸っており、大きな転石を支点に懸垂下降し、次の2Mは左岸草付に取付き、草付を割るルンゼ状のところを下降する。左岸から(1:1)で流れを併せると、急なゴーロ帯となって高度を下げ、斜度が落ちたところで開けて、左岸からの水量の多い流れに(2:1)で合流する。

左へカーブしていくと8M滝が懸り、岩壁の突起状のところにロープを掛けて懸垂下降する。右から枝沢を併せると、転石が大きくなってくる。さらに左から枝沢を併せて少し下った辺りから、ゴルジュ状を呈してくる。釜を持った5M滝は右岸を少し登って懸垂15Mで沢身に下降し、下段が樋状になった15M2段は左岸のブッシュ帯を下降して最後は懸垂で沢身に降りる。

8M2条の滝
5M滝の落口と釜

谷は大きく蛇行しながら滝を連ね、この後2度の懸垂下降の後、釜を持った2段の滝を右岸から巻いていくが、ブッシュから沢床までの高度が縮まらず、右岸から流れてくる枝沢に出て10M滝の下で本流に降りた。

高巻き手前で懸垂下降した7M滝
高巻いた一連の滝の最下段の10M滝

開けた河原状の流れとなって左へ右へと緩やかに蛇行すると、正面に北股川の対岸と思われる山肌が間近に見えてくる。間もなく連瀑帯となり、3M、10Mを懸垂下降し、次の滝からは左岸の樹林帯を下降する。テラスを連ねたような斜面を快適に下降していくと、やがて本流の流れを眼下に見下ろすところで樹林帯が終わり、急峻なスラブとなって落ち込んでいる。太い木の幹にシュリンゲを残置して、懸垂下降30Mで北股川本流の沢身に立った。

開けた河原
10M2段の斜瀑
左岸を巻いて下降した出合付近の連瀑
出合に懸る30M2段の下部

思いの外いやらしい小滝が多く、文四郎沢の下降に時間がかかってしまった。10時頃ここにいるつもりだったが、昼を過ぎてしまった。本流を遡行するとすぐに釜を持った5M滝が懸るが、これを登っても次の滝を越えられないことが分かっているので、最初から左岸から小滝を懸けて落ちてくる支流の左側のリッジ状を登って高巻く。リッジはフリクション抜群でガバのホールドが豊富なので、問題なく登れる。上部でブッシュ帯に取付くと、なだらかに下降して本流左岸の段丘上に降りるが、沢身へ降りる2M程の壁にホールドが乏しいので、木の幹に懸けたロープに頼って沢身に降りる。

高巻きルートのリッジへ直行

眼前には二分した流れにそれぞれ釜を擁した3M滝が懸っている。左は2条、右は3条である。ここを左から越えると、左岸の岩盤に水溜りがある4M滝で、水溜りに浸かって滝の右側にある大岩の基部に立ち、ザックを踏み台にして大岩の隙間から這い上がって、滝上から荷揚げをする。しばらく河原状のゴルジュを進み、2M滝と4M滝を越えると、入り大石沢出合に至る。

流れを二分する滝
入り大石沢出合手前のゴルジュ

手前から彦兵衛前滝の巻きルートを物色しながらアプローチしていったが、正面スラブの中段あたりに見えるグリーンバンドで滝上に出られそうな感触を持った。まずは、入り大石沢左岸の草付を登って、入り大石沢の8M滝の上に出る。滝上には8月に泊まったところが、整地されたままの状態で残っていた。

正面のスラブ壁

幕場跡の対岸のスラブに取付いてみると、思ったほど斜度がなく、またスタンス、ホールド、ブッシュも豊富で快適に登れる。スラブは小テラスを互い違いに繋げたような感じなので、随所でレストできる。800Mを少し越えた辺りでブッシュが続いており、ここを上流へ向かっていくと、彦兵衛前滝とそれに続く滝の上までは問題なかった。しかし、さらに登れそうもない滝が二本続いており、沢身に降りても登り返す羽目になりそうだったのと、15時を回っておりあまり時間をかけていると、前日同様暗くなってしまいそうだったので、リスクを避けて沢身に降りるのをやめた。

スラブのトラバース中に見下ろした彦兵衛前滝の上流

この地点から滝上にトラバースできればいいのだが、滝上との間は無木立の急峻なスラブに遮られており、スラブを縁取るブッシュ帯を登っていかなければならない。結局、8月の高巻きルートに合流し、950Mコルに出て980M付近まで尾根を登り、本流対岸の枝沢目がけて降りていく枝尾根を下降することになった。

河原に降りて、8月に幕場にした砂地へ行ってみると、ここも8月に整地した後が綺麗に残っていた。今回は少し先へ進み、草の生えた平坦な台地を見つけてテントを張った。夜、適度な風があったためか結露もせず、快適に過ごすことができた。

8月に泊まった河原の一角
今回の幕場

15日(晴)

鮎倉沢は今回遡下行する支流の中では最も流呈が長いので、余裕をもって早めに出発する。しかし、その反面で、地形図上は開けた感じなので、意外に短時間で詰められるかもしれないという気もしていた。

地蔵カル

幕場からしばらくは、地蔵カルの側面のスラブを右手に見ながら、巨石が転積するゴーロ帯を歩く。緩やかに右に曲がっていくと、やがて急峻なスラブに挟まれた狭い谷になる。両岸ともに谷底から40~50Mくらいは、わずかに草がついている程度で、ブッシュ一本生えていない。ここを行くと谷間いっぱいに水を湛えた瀞の奥に登れないCS滝が懸っているので、ゴルジュ入口で左岸のルンゼを登って巻いていく。今回は980M付近までルンゼを登って、左岸から谷を圧迫している尾根状を乗越して反対側に下降した。ブッシュが少なくなってきたところで、木の根にロープを掛けて懸垂下降するが、途中でロープの先を確認すると、谷底まで達していない。10M程下のブッシュにロープを掛け変えようとしたところ、丁度8月に残置したシュリンゲがあった。ルートは違えど、下降点は同じだったということだ。ここから鮎倉沢出合までは、雪渓さえなければ浅い瀬の流れが続くので問題ない。

地蔵カルを回り込むように続くゴーロ
左手のゴルジュを右手のルンゼに取付いて高巻く
下降開始点から見下ろしたゴルジュ
8mmと6mmのロープを結束して懸垂下降で沢に戻る
下降点付近のゴルジュ

彦兵衛滝の懸る本流から右に分かれて、鮎倉沢に入る。出合からしばらくは右岸にスラブ、左岸に絶壁が続き、谷底には角が取れていない岩が散乱している。谷は3M滝を懸けて左へ折れ、さらに6×10の斜瀑を越えて右へ曲がると、次第に開けて長閑な雰囲気になってくる。

出合から見た鮎倉沢

10Mの巨石の滝を手前から右側壁を斜上するように越えると、2M程度の滝がぽつぽつと懸る河原状の流れとなる。1150M付近では左手に広くイタドリの台地が広がって、大きく開けている。このまま開けて谷が消えてしまいそうな雰囲気だったが、右に細い流れを4本ほど分けながら左へ曲がっていくと、やや狭まってきて3M滝を二度越える。

10Mの巨石の滝
2×4斜瀑
開けた渓相が続く
河原脇のイタドリの台地
3M滝

やがて、真っ直ぐ続くゴーロの先に大きな滝が見えてくる。右岸の浅いガレルンゼを少し登った所から、大滝左側のスラブ壁を登ると、上部は草付のトラバースとなり、落ち口に出る。高度計で計った滝の落差は25Mだった。これまでの雰囲気から単発の滝かと思っていたが、連瀑帯となっており、すぐに2×4、4×6と続き、右に折れると8M2条の滝が二本続いて、いずれも左壁を登って越える。

25M大滝
右岸巻きルートから見た大滝落口付近
8M2条

少し離れて6M2条は右の草付バンドから越え、5M-1M-4M-2×6の一連の滝を左-左-左-右と越える。ゴーロ状の滝を過ぎ、二本続く8M、8M2条は右の緩い草付から小さく巻く。両岸に岩壁が立って門のように狭まった所を抜けると、一旦開けた後、小ゴルジュへ入っていく。ゴルジュ入口の5Mは左側を登ったが、次の2MCSとゴルジュ末端の5Mは左側の草付をトラバースして越えた。

連続する滝

4M、8Mと続く滝をまとめて右側の斜上バンドから越えると、右手に支流を分けて、また小ゴルジュとなる。ゴルジュ末端の3M3条は登れなくもなさそうだったが、濡れるのを嫌って右岸を巻くが、急な草付が続いて下降できず、しばらくトラバースした後に少し先の急なルンゼを下降した。すぐ上流で(1:4)で左に支流を分け、流れは右へと向かっている。

4Mと8Mの滝
城壁のような壁に挟まれた小ゴルジュ

小滝が連続したような14M3段を難なく越えると、両岸共にかなり低くなってきて源頭の様相を呈してくる。両岸も草付というより草原と言った方がしっくりくる。いくつかのナメや緩い滝を越えていくと、1850Mで5~10cmくらいの石がびっしり敷き詰まった湧水帯となり、全水量がここから湧き出している。

14M3段斜瀑
ナメ滝が断続する開けた渓相

湧水帯を過ぎると涸沢となり、窪は二手に分かれる。右は登山道に近いが、草が多く上部は笹薮に消えそうである。水は流れていないが、左が本流と言えそうである。左の窪を詰めて行くと、窪は稜線手前で草原に消え、8月に財布沢から詰め上がった尾根に出た。詰め上がった所から1995M辺りまで草原の尾根を登り、笹薮をトラバースしておういんの尾根の登山道に出た。

湧水帯付近
詰め上がってきた草原の窪
緩い草原の尾根を登って登山道へ向かう

長閑な雰囲気の沢を遡行した余韻に一人で浸りたい気分になり、梅花皮小屋へ行くのをやめて、おういんの尾根を下降する。急げば湯の平温泉まで行けなくもないが、中峰でテントを張って泊まることにした。

中峰の幕場

16日(晴)

夜はだいぶ冷えた。朝、テントの外に出しておいたザックやロープバッグには霜が降り、テントのアウターウォールに結露した水滴は凍っていた。かじかむ手に鞭を打って撤収し、おういんの尾根を降る。30分程歩いたあたりで、ようやく体が温まってきた。加治川ダムまで歩き、停めておいた自転車で治水ダムの駐車場へ向かった。

 

遡行図:藤十郎沢文四郎沢鮎倉沢

山行最終日:2016年10月16日
メンバー:長島
山域: 飯豊連峰 加治川
山行形態: 沢登り
コースタイム:
13日:加治川治水ダム(5:55)-加治川ダム(6:50)-北股橋(7:25)-青滝(9:20)-藤十郎沢出合(11:10)-990m二俣(14:30)-藤十郎山(16:05)-文四郎沢1115m幕場(17:50)
14日:文四郎沢1115m幕場(7:35)-900m(8:30)-文四郎沢出合(12:35)-入り大石沢出合(14:25)-850m幕場(16:40)
15日:850m幕場(6:25)-鮎倉沢出合(9:05)-1390m付近(11:30)-1700m付近(13:15)-尾根(14:15)-おういんの尾根登山道(14:35)-中峰(15:40)
16日:中峰(6:00)-湯の平温泉(7:40)-加治川ダム(9:00)-加治川治水ダム(9:45)
地形図:二王子岳・飯豊山
報告者:長島