飯豊川 黒沢・赤谷沢・地蔵カル沢

夏合宿以来一ヶ月振りの飯豊川上流部である。今回遡行する左岸の支流三本以外にも、本流に架かっていた雪渓がどうなっているのかも興味深い山行であった。

20日:

胎内川東俣沢から頼母木川を継続した山行以来、新潟に泊まっていたので、今回は、4時過ぎに新潟のホテルを発って、加治川治水ダムへ向かう。本来ならば、折り畳み自転車を持ってきていたところだが、当初の予定が二人パーティだったため、自転車を積載してこなかったことが悔やまれる。しかし、歩き慣れたルートということもあって、さほど遠く感じることもなく、湯の平山荘に着いた。

山荘から河原の湯船へ向かう階段を下り、先ずは、8月に押し戻された本流の様子を窺いに行く。さすがに支流同様、かなり水量は減ってきており、下部ゴルジュも突破できそうだ。しかし、今回は巻き道を行く予定なので、山荘から見て湯船の手前のガレを登って、巻道に取り付く。ガレには薄っすらと踏跡がついており、右寄りへ35~40Mくらい登ったところに、目印が見受けられる。釣師の利用もあるようで、山荘付近は割としっかりとした踏跡がついていた。

飯豊川本流 湯平温泉付近

右岸の枝沢が入る手前で、踏跡は沢へ降りて行ったが、途中まで降ったところで登り返して、藪を漕いだ。途中、同じルートで鉢合わせになるかのように熊に遭遇する。気づいた時点で、手を叩いてこちらの存在を知らせると、Uターンして逃げてくれたので、事無きを得たが、向かってこられたら、自力で引き返せる余力が残されたかどうか・・・。

巻き道から見下ろす飯豊川蓬沢出合付近

枝沢を越えてしばらく、横向きに生える灌木を潜ったり跨いだりして進むが、右手下方にブナ林が見えてきたので、ブナ林へ向かって下降すると、巻道らしき踏跡に合流した。枝沢手前で踏跡通り下降すべきだったようだ。そのままブナ林を快適に歩き、右岸がなだらかに谷底と繋がりそうになると、黒沢出合である。懸垂で黒沢対岸に下降した。

ブナ林から見下ろす黒沢出合

本流と黒沢とは、互いに滝を懸けて出合っている。本流はさらに上流40Mくらいのところにも、2Mの滝を懸け、その先では右岸側壁が次第に低くなっていく様子が窺える。

本流の上流に懸る2M滝

出合の滝は7M2段となっており、右岸を斜上する。水流を跨ぎ、続く8M簾状の滝は右壁を登り、続く5Mの滝は左側のスラブが登れそうだが、そのまま左岸のブナ林に入って巻いた。

出合の滝を足下にして黒沢に入渓
続く簾状の滝

次の滝は2条というよりも、二つに分かれた滝のようにも見え、左は10M樋状、右は8Mとなっている。二つの流れの間のリッジに取り付いて、上部はその左よりの凹角を登る。両岸緑が生い茂り、穏やかな雰囲気だが、やがて岩壁が立ってきてゴルジュに突入する。難しい滝はなく、次第にゴーロになり、さらには開けた河原に変わる。

左側10M右側8Mの滝
出合方面を見下ろす
河原を過ぎるとゴルジュになる
ゴルジュにはいくつか小規模な滝が懸っている
ゴルジュを抜けて開けた河原に出る

再びゴーロからゴルジュとなると、少し落差のある滝も出てくるが、概ね直登できて楽しい。

二つ目のゴルジュに懸る12M滝
5MCSを越えるとゴルジュを抜ける

800~850M付近は再び河原となり、BP適地も見受けられる。それを過ぎると、再び滝場となるが、ナメ滝の基部付近の左壁から、噴水のように水を吹き出している湧水があった。

吹き出る湧水

テーブル状の岩盤上を歩き、左手に大きな落差の枝沢を見送ると、険しいゴルジュ帯となる。そのゴルジュどん詰まりをどう登るかが黒沢の核心と言え、左壁が抉れて岩屋となっており、本流は10M、左岸支流が7Mの滝を懸けている。左岸支流右側のルンゼを登り、支流の滝上をトラバース、さらに支流と本流の間の草付をトラバースして、本流の10M滝の上に出た。この後、最大12Mの滝を始め、いくつかの滝を懸けるが、問題になる所はない。

テーブル状の岩盤上の流れ
ゴルジュ末端に懸る10M滝を左ルンゼから巻く
3条に分かれる簾状の5M滝
凹角を抉って落ちる8M滝
「人」字の水流の12M滝

再びゴーロとなって、1020M付近にこの沢ではベストと言えそうな砂地のBP適地があったが、欲を出して先へ進む。結局、それ以上のBP適地は見つからないまま、時間切れで、1175M付近の狭い河原を整地して幕場にした。

ゴーロの中幕場を探しながら進む
幕場からの眺め

21日:

幕場を後にしても、ゴーロの渓相が続き、ぽつぽつと簡単な滝が懸る程度で、1290Mの三俣に着いた。

上流は概ねゴーロが続く
三俣

左俣と中俣の水量が多く、右俣は細々とした流れである。たかだか5M位の滝をいくつか越え、左右に枝沢を見送っていくと、水が枯れて、広い笹のトンネルに入る。やがてこのトンネルを抜けると、左手に草原が広がり、わずかに水流が出てくる。もう一度笹のトンネルに入って少し登ると、窪は尾根と平行に向きを変えて、実川山山頂方面へ向かうが、左に2Mも登ると尾根上に出た。

上流部の滝
笹のトンネルの切れ目から実川山が見えてきた

柱石が見つからないものかと、1738M地点を目指して下降するが、あまりに笹が密集しているため断念して、赤谷沢側に降る。笹を掻き分けて降ると、傾斜の急な草原に出た。

黒沢と赤谷沢を隔てる尾根
赤谷沢源頭の草原

慎重に草原を降って、その基部から下方に続いているガレに入る。1600M辺りから水が流れ出し、左岸から流れを併せる毎に、沢らしい流れになってくる。いつしかガレからゴーロとなり、ゴーロの中に滝だか落込みだか判断に迷うようなところが出てくるが、特に問題になるところはなく、スノーブロックが残る1244M二俣に出た。

明瞭な沢型になる
スノーブロックが残る二俣

二俣の下もゴーロが続き、下降が捗る。1160Mで左岸の枝沢を合わせる辺りに雪渓が残り、崩壊したブロックの上を歩きながら、雪渓を潜り抜けると、再びゴーロとなる。

雪渓を潜る

次第に滝が増えてきて、小滝を左、右と巻き、8M滝も左を巻くと、いくつかの滝を擁するゴルジュとなる。右岸を巻いてゴルジュ下に降りると、出合は近く、6M、4M、7Mの滝の左岸を巻いて、懸垂で飯豊川本流に降り立った。最後の7M滝上で水流を渡っていれば、樹林帯を下降できたので、捨て縄一本無駄にせずに済んだはずである。

次第に滝が増えてくる
本流が見えてきた 出合に連なる滝は左岸を巻いていく
巻いている滝を見下ろす
出合の7M滝

広々とした河原を10分も歩くと、洗濯沢出合の広河原に着いた。8月にツェルトを張った所に、テントを張る。我々が泊まった後、入渓者があったようで、新しい焚き火の跡があった。しかし、アルミ缶の燃え残りや、スチール缶の蓋を残していってもらいたくないものだ。目障りなゴミを識別できる範囲で回収した。

22日:

雪渓の状態によっては、引き返して洗濯沢に入る可能性もあるので、この日は早目に幕場を発つ。水量が減って、徒渉ポイントも至る所にあるので、赤渋沢までは8月より一層楽に行ける。高巻の取り付きに使うルンゼの基部にザックを置いて、先のゴルジュを偵察に行く。8月に行く手を阻んでいた雪渓は消えており、その先で谷が左に曲がった辺りまで足を伸ばし、前方にツルツルの壁に囲まれた2M滝を認めた所で引き返した。

赤渋沢出合の滝
赤渋沢出合の先の赤い壁のゴルジュ
ゴルジュ屈曲部の先に懸る滝 ツルツルで登れそうもない

8月と同じルンゼからゴルジュ下部を巻くが、今回は途中から左寄りに進路を取り、ルンゼ内の中間小尾根に取りついて、ルンゼを直上した。左岸に逃げると石楠花が煩いので、今回のように直上したほうがよい。

ルンゼに取付いて小尾根を越える

尾根を乗越して、左手すなわち上流方向に30Mくらいトラバースしながら下降する。対岸下流方向にスラブ状のルンゼを見て、下方に抉れた壁が見える辺りを目指して、ブッシュ帯を降っていくと、ゴーロのルンゼが谷に出合う辺りに降りていく斜面に出る。懸垂しなくても下降できそうな斜度で、しかも懸垂の支点になる程度の小灌木もあるので、雪渓があるときもないときも、先ずはここを目指すのがよさそうである。

小尾根からの下降点

対岸(左岸)の基部が抉れているところは、ちょうど6Mくらいの滝が懸っており、滝下は満々と水を湛えた釜になっている。今回はこの地点の雪渓は消えていたが、この先で谷が右に曲がる辺りには雪渓が残っている。

6M滝の上に降りた この滝の下に降りたら登れるかどうか・・・

怪しい亀裂の入った雪渓を潜るのはゾッとするが、不安定そうなところは足早に通過しようと、意を決して突入する。雪渓下にも、剥離して堆積したツルツルのブロックがあって、なかなか足早にとは行かないのがもどかしい。幸い足止めするような障害物はなく、あっさりと雪渓を抜けることができた。抜けた先には、見慣れぬ滝があったので、8月に丸太で懸垂した部分は無くなっていたのだろう。この滝は、左壁との間を空身で突っ張りで登った。

降り立ったゴルジュを先へ進む
亀裂が入った雪渓の下には崩壊の痕跡のブロックが転がっている
雪渓を抜けると小滝の釜が壁間いっぱいに広がる
潜り抜けた雪渓と高巻いた小尾根を振り返る
通り抜けてしまえばただ美しく見える

8月の高巻きの取り付き点の岩稜と上部に続くルンゼを右手に見て、先へ進む。8月の状態から、地蔵カル沢出合までは、雪渓はないと予想していたが、この予想は見事に外れ、前方には再び雪渓が現れる。

8月の遡行ではここを登って雪渓の上に降りた
上流にも雪渓が架かっている

ゴルジュの底いっぱいに広がる深い瀞を持った2M滝を、左壁のスタンスを拾いながら巻くと、雪渓を見上げる位置に達する。スノーブロックと岩が混在したゴーロを行くと、先ず左側に雪渓が口を開けている。ブロックが山積みになっており、右岸から滝を懸けた枝沢が流れ落ちている。

そしてすぐ先に、釜があり、右側に空が見えてくる。ここが地蔵カル沢出合で、地蔵カル沢は6Mの滝を二本続けて懸け、本流は2M簾状の滝を懸けている。釜の流れ出しで、左に渡り、本流の2M滝の落口に登って、地蔵カル沢右岸の斜面に取り付く。右壁より簡単そうに見えたのだが、ここからブッシュ帯までかなり悪かった。右壁も真近まで行ってよく見ておくべきだった。

地蔵カル沢の出合に続く2つの滝

ブッシュ帯に取り付くまでにかなり手間取ったが、そこから右寄りにブッシュ帯をトラバースしていくと、先に大滝が見えてきた。ブッシュ帯下に草付バンドがあり、落口に続いているように見えたので、進路を下方にとってバンドを行ってみたが、途中で途切れていたので、引き返して、改めて樹林帯から巻き直した。

出合から続くゴルジュを右岸から巻いていく

20M滝の落口に降りたところで、ちょうど左壁から水が湧いていたので、口にしてみたが、鉱物臭くて飲めたものではなかった。滝下は険悪なゴルジュで、幾つかの滝も認められるが、ここはいくらか穏やかな雰囲気である。

20M滝を横目に見ながら落ち口目指す

と思ったのも束の間、すぐに大きな釜を擁する悪相の8M滝に行き当たる。しかし、意外にも右壁を簡単に斜上できた。

釜を持った悪相の滝
鼻が垂れている分厚い唇のようにも見える

本当の難所は次の6MCS滝で、両壁とも行けそうもない。大きなブロック状の右壁からブッシュ帯を目指すが、この岩場も悪く、ブッシュが散在するところまで息が抜けない。何とかブッシュ帯に取り付いて、CS滝の続くゴルジュが切れる辺りまで、延々とトラバースする。沢床のゴーロが見える辺りに下降できるラインを探し、ちょうど中間点にブッシュが数本生えている所で、懸垂下降を開始。中間点のブッシュに支点を掛け替えて、2ピッチで沢床に戻った。

ゴルジュに懸る6MCS滝
左岸から巻くがなかなか下降点が見つからない

この先は、しばらくゴーロ主体の沢となるが、岩が大きくて、必然ゴーロ滝と化しているところも多い。右手に枝沢を分けると、6M滝、左側に大岩を挟んで10M滝と続くが、イタドリを掻き分けながら、大岩の裏を回り込んで、続く小滝ともども一気に巻いてしまう。さらにゴーロ滝や5M前後の滝を幾つか越えていくと、1430Mの二俣に着いた。

高巻いたゴルジュの先は開けている
右岸手前で滝を懸けた枝沢を合わせる8M滝
左に大岩がある滝
ゴーロの先に懸る5M滝

左俣に入っても滝場は続くが、それほど難しい滝はないので、順調に高度を稼いでいく。1700M辺りに来ると、最近まで雪渓が残っていたと思われる名残の泥や、下部毎押し流されてきた笹が煩くなる。そこを抜けると、水流は細まり、最後の分岐を右に行くと、右手に雪田を見送り、草原の中の石段となる。最後は笹薮となり、既に暗くなった中を、さらに暗い藪を掻き分けて登山道を目指す。

左俣の15×25スラブ滝

何とか登山道に辿り着き、大日岳方面へ進む。辺りは完全に暗くなり、冷たい風が吹き付けるので、御西小屋まで行くことは諦めて、大日岳手前の平坦地に、道がやや広くなっているところを見つけて、道の真ん中にテントを張って幕場とした。

23日:

明るくなると同時に出発できるように、3時半に起きて食事を摂って撤収にかかる。水滴を含んだ風で、テントのアウターウォールはびしょ濡れだ。

御西岳へ向かう途中で朝陽が差してくる

ちょうど明るみ始めた頃に幕場を後にして、大日岳、烏帽子岳、梅花皮岳、北股岳のピークを越え、おういんの尾根を降って、約半日掛かりで加治川治水ダムに下山した。

 

遡行図:黒沢赤谷沢地蔵カル沢

山行最終日:2014年9月23日
メンバー:長島
山域: 飯豊連峰 加治川
山行形態: 沢登り
コースタイム:
20日:加治川治水ダム(6:15)-湯の平山荘(9:25)-黒沢出合(12:30/13:05)-標高790M付近(14:40)-標高895M付近(15:15)-標高1020M付近(16:30)-標高1175M付近(17:35)
21日:標高1175M付近(6:20)-1290M三俣(6:50)-稜線1738M付近(8:50)-赤谷沢下降開始(9:10)-1244M二俣(10:35)-出合(13:15)-洗濯沢出合の広河原(13:25)
22日:洗濯沢出合の広河原(5:25)-赤渋沢出合(5:40/6:00)-地蔵カル沢出合(9:00)-右岸高巻き終了20M滝上(10:50)-左岸高巻き終了1030M付近(13:15)-1435M二俣(15:35)-1620M右岸枝沢出合(16:35)-登山道(18:50)-大日岳西南西の平坦地の道中(19:20)
23日:大日岳西南西の平坦地の道中(5:10)-御西小屋(6:25)-梅花皮小屋(9:15/9:30)-北股岳(10:00)-中峰(11:10)-湯の平山荘(13:55)-加治川治水ダム(16:40)
地形図:二王子岳・飯豊山
報告者:長島