頼母木川足ノ松沢

天気予報が芳しくなく、堂沢から足ノ松沢へ転進した。堂沢3級、足ノ松沢4級。まさかのグレードアップの転進だった。土曜日の予報は午後から雨。頑張れば、1日で稜線まで抜けられる沢を選択したのだった。

足ノ松沢は1泊2日の沢だが、土曜日のうちに稜線まで突き上げ、頼母木小屋に宿泊した。夜、雨がかなり降ったので、結果、小屋泊まりは大正解!しかし、4級の沢を1日でツメ上がるのは、俺には過酷だった。

足ノ松尾根登山道に入り、登山道が登りになるところから沢に下降した。岩にはコケはなく、歩きやすい。ときどき岩魚が走る。いい沢だ。2m、2段4m、2m、2m、3mと小滝が続く。途中、左岸にトラロープが見えた。釣り人が入る沢なので、残置ロープがあるのだろう。普通はここから巻くのかもしれない。しかし長島さんはチラッとロープを見るだけで、そのまま沢を進んでいった。なんとなくイヤな予感がした。おそらく、トラロープの場所から巻かないと苦労するのだろう。予感はみごとに的中した。進むと10mの滝が現れた。登れそうにない。左岸から高巻く。小さな沢形からツメようとしたのだが、泥で足場が悪く、登れない。長島さんが途中まで登って、降りてきた。左岸をトラバースして巻くのだが、7mほどブッシュがなく草付き。滑ったらかなり下まで落ちそうだ。長島さんはまるで猫のようにしなやかに進んでいく。しかし、俺は下に降りて待っていたため、長島さんがどのルートを行ったのか、しっかりと確認出来なかった。長島さんが取り付いた場所まで行ってみたが、足場が見つからず、途方に暮れてた。しかし、先に進むには、ここを高巻かなければならない。少し下まで降りて、必死に足場を探した。アカザやシシウドの根元に慎重に足を置き、手はシシウドの根元をしっかりと押さえつけるように持った。一歩一歩、神経を研ぎ澄まして進んだ。やっとの思いでブッシュを掴んだときの安堵感は今でも忘れられない。ここまでくれば、谷まで滑り落ちる確率がかなり低くなるとホッとした。なんとか長島さんのいるところまで辿り着いた。「苦労していたね」と一言。はい、めちゃくちゃ苦労しました、と心の中で叫んだ。トラロープから巻いた方がよかったのでは?と素朴な疑問をぶつけてみた。長島さん曰く、「あれは釣り人が使うものだよ。沢屋は使わない。」 あー、愚問でした。

その後、2~4mの小滝が11本続いた。1箇所、手がかりがなく、2mの滝を巻く。飯豊の滝は小滝でも手ごわい。さらに4m、5mと登れる滝が続いたが、続く8mの滝は右岸から高巻き、懸垂で降りた。

この日は沢泊ではなく、稜線まで抜ける計画だ。長島さんからは、「スピードを上げて行こう。」と言われたが、俺はなかなかスピードが上がらなかった。しょっぱなの緊張の高巻きと小滝の連続で、思いの外、体力を消耗してしまったのだろ。これ以上、スピードを上げられそうにない。長島さんから、「なかなかスピードが上がらないねぇ」と苦笑されてしまった。

3m、5m、18m、2m、2段3mと滝が続くが、今のところロープを出すことはなく、なんとか時間のロスを最小限に留めることが出来ていた。続く4m滝。左岸手前を登攀し、トラバースして滝を乗り越える。地層のようにシワシワの層が入った岩質で、登りやすそうなのだが、意外とガバがなく、手元が細かい。しかも、登攀ルートが少しハングっている。つまり、意外と難しいのだ。長島さんは何事もなかったように先に行って待っている。ここを登っていかないと、たとえロープを出してもらったとしても滝の水流の中を引っ張りあげることになる。やはり、長島さんが登ったルートを行くのが一番現実的だ。意を決して登攀に挑む。こういうとき、重心移動して足に立ちこむ瞬間がすごく緊張する。もし足元が滑ったら、それなりの落差を落下することになるからだ。バランスを保ちながら、なんとかこの4m滝をやっつた。先に進むと、また難しい4m滝のお出ましだ。左岸を登るのだが、ツルツルのスラブで登れるようには見えない。長島さんが空荷でルートを開拓し、後続の俺はゴボウで登った。さらに続くゴルジュの中の2m滝。長島さんは絶妙なバランスでスラブ滝を登って行く。長島さんが登ったルート、重心移動の仕方をしっかり見ていたのにも関わらず、俺には全く歯が立たない。結局、長島さんが取り付いた場所よりもさらに滝寄りの場所にルートを見出して、なんとか突破した。リーダーに開拓してもらったルートを登れないとは・・・・。正直、落ち込んだ。しかし、飯豊の沢は、落ち込んでいるヒマなど与えてくれない。その後、4mの滝を越えると、6mスラブ滝が現れた。長島さんは空荷で登った。足元、ガバともに細かい。ルートをどう切り開いていくかが鍵だ。長島さんの登り方を見落とさないようにしっかりと観察した。そして、俺が登る番だ。ロープで確保されているのだが、それなりに難しく、緊張した。ここで後悔したことがある。自分が空荷で登ると荷揚げの負担を長島さんに強いることになる。長島さんに負担をかけたくなかったので、ザックを背負ったまま登ったのだが、素直に荷揚げしてもらえばよかった。結果的にその方が早く登れたかもしれない。今度から長島さんが空荷で登ったときは、自分も荷揚げしてもらおう。

その後、2m、2m、2段7m、2mと滝を越えて行くと、なんだが生暖かい風が上から吹いてくる。白いもやが立ち込め、いかにも雪渓が出てくる雰囲気満点だ。進むとやっぱり雪渓が現れた。右岸から雪渓に取り付くのだが、草付きで足場が危うい。アイスハンマーを雪渓側面に打ち込みながら登った。夏合宿の八久和川でやった経験がこんなに早く役にたつとは。雪渓はCo930の辺りから約50mほど続き、30mの黒滝で途切れる。黒滝左岸を高巻き、沢に降り立った。しばらく進むとポツポツと雨が降り出した。予報では15時に雨の予定だったが、予定よりも早く13:30に雨が降り出してしまった。この時点で標高1,000m。もう雨で急な増水は起こらない地点だろう。少し安心した。10×30m、2m滝を過ぎると1:1の二俣。7m滝を高巻いて右俣に入る。このときも草付きの高巻きだった。長島さん曰く、「上越によく出てくる初中級の草付き」だそうだ。やっぱり草付きは緊張する。もし滑って沢まで落ちたら、滝まで流されて、7mの落差まで落ちそうだ。くわばら、くわばら。滑らなくてよかった。

右俣に入り、2段9×20mの滝を越えると、水量はいよいよ少なくなり、源頭の雰囲気になる。最後は草原となり、長島さんに遅れること10分、15:38にやっとの思いで登山道に出た。その後、1時間強で頼母木小屋に着いた。小屋では、管理人さんに焼肉とナスの漬物をご馳走になった。疲れた体に温かい食べものは本当に有難い。ビールで乾杯して、1日の労をねぎらった。

翌日も朝から雨。ゆっくりと小屋を出て、昼前に駐車場に着いた。

草付きの高巻き、スラブの登攀。今回の山行は今の自分の実力ではギリギリだった。はっきり言って、いままで行った沢の中で一番難しかった。密かに、いつかは飯豊川本流に行きたいと思っているのだが、まだまだ道のりは遠そうだ。まだまだ精進しなければ。

山行最終日:2013年9月8日
メンバー:長島(L) 伊地知
山域: 同行者の記録
山行形態:
コースタイム:
地形図:えぶり差岳・二王子岳
報告者:伊地知