頼母木川 上ノ小俣沢

今年是非遡行したかった沢が二本ある。胎内川の二つの作四郎沢だ。今回はその内の一本、下流の作四郎沢を遡行するつもりだったが、初日の大雨のため、三連休の後半二日間を使って予備計画の上ノ小俣沢を遡行した。作四郎沢は来年への持越しが確定してしまい残念である。

12日:

中条駅の改札で一人の登山者と思しき人に声をかけられる。「相乗りしませんか?」「奥胎内ヒュッテですか?」「はい」これで交渉が成立して、運良くタクシー代が半額になった。中条駅を発つときは小雨だったが、山間深く入っていくほどに雨が強くなる。

奥胎内ヒュッテで車を降りて、沢の様子を見に河原へと続く階段まで行ってみると、案の定増水して笹濁りである。これでは作四郎沢など遡行できるものではないと、ヒュッテの軒下でしばらく雨の様子を窺うことにした。

昼過ぎまで待ったが、一向に雨脚が弱まる気配はない。今日は諦めて、明日から予備計画の上ノ小俣沢に入ろう。今年何度も素通りしてきたヒュッテに泊まってみるのもいいではないか。フロントで宿泊希望を告げると、幸いキャンセルが出て空室があるという。夕食のみで土曜日料金8500円也。部屋は小綺麗で、団体客を主体に捌いている観光地の大型ホテルよりずっと快適だ。

それにしても小雨の予報に反して、大降りの雨音が絶えない。時々豪雨ともいえる降り方をしている。まあ、いいだろう。今日は一日雨音を聞きながらゆっくり過ごそう。この日ヒュッテの蔵書の一冊、高桑さんの「山小屋からの贈り物」を読んだ。最終日には、この本に載っていた飯豊の主的存在という人と話をする機会に恵まれた。

13日:

午前5時20分、この季節にもなると夜は明けきっていない。ヒュッテの玄関の自動ドアは電源が切られているので手で開けて外に出る。満員となった朝一番の乗合タクシーを見送りつつ、足ノ松登山口方面へと歩き始める。この間、タクシーはヒュッテと登山口の間を往復して登山者を運んでおり、二回抜かされた。

登山口からゲートの閉まった林道を直進して歩き続けると、一旦雨が強くなったのでしばらく木陰で様子を窺った。小降りになるのを待ってから先へ行く。次第に林道が下り坂となって沢に近づいていくと、切通しの堰堤の下に出た。

切通しの堰堤 中央は水圧激しく通れない

コンクリート製の堰堤の表面には、等間隔で25cmくらいの石が埋め込んである。これをホールドにしてへつって行き、4段に区切られた切通しを流れる水流に立つが、昨日からの雨で水勢を増した流れを突破できそうになく、再びへつって引き返す。結局堰堤の左壁に埋め込まれた梯子を伝って堤体を登って越えた。

堰堤を越えるとゴーロのゴルジュが続く

堰堤を越えると河原となるが、水勢強く徒渉のために手頃な棒切れを拾う。何度かの杖突徒渉を交えて少し進むと、ゴルジュとなる。切り立った壁間いっぱいに水が流れているが、幅が広く浅いので右壁際を進む。やがて壁間が狭まると釜を持った幅広の2M滝が豪快に水流を落としている。左壁を少し登りバンドに乗り上げて巻気味に滝を越すと、少し開けて小さな河原となる。

右壁が抉れた小滝から曲がりくねったゴルジュが始まる

しかし、すぐにまたゴルジュとなり、腰まで浸かって釜の左壁をへつって2M滝に取り付いてこれを越えると、抉れた右壁の下に釜が続き、その先に3Mと4Mの滝が懸かる。今日の水量ではこれらを越えるのは至難で、3M滝手前右岸ルンゼからこれらを高巻く。

なかなか手頃な下降点がなく、側壁が立った枝沢を越えなければならなくなり、結構大きな高巻となった。斜度が緩くなっている550M手前で沢に戻る。僅かの間河原が続くが、再び谷が狭まり谷幅いっぱいに深い流れが出てくる。右岸岩壁上部の草付きと潅木の入り混じった斜面に手頃なバンドがあり、このバンドを伝って小俣沢出合の手前まで巻いた。

貧相な小俣沢出合

小俣沢出合はゴルジュの真っ只中にある。小俣沢は貧相で、注意していないと通り過ぎてしまいそうだ。ゴルジュの中に穿たれたT字路から裏小路のような小俣沢に入ると、2~3Mの滝が4つ続いており、全て左側から越える。

6M滝左壁を登ると円筒状壁の5M滝が現れた

やや広くなって流れが右に曲がると、すぐに6Mの滝が懸かる。遠目からはのっぺりと見える左壁には、結構ホールドが豊富で、落口にも、また落口から遠ざかる方向にも登っていける。滝上にはまん丸の釜があり、登れない5M滝が懸かっている。さらにその上にも8M2段の滝が続いており、右岸をブッシュ伝いに登って高巻きに入る。巻いていくと8M2段の上にも険しい滝が続いており、3Mと釜を持った8Mの滝もまとめて巻いて沢床に戻った。

大釜に向かって勢いよく吹き出す18M2段の滝

この先、一旦ゴルジュ地形が途切れるが、再びゴルジュとなる。明るいゴルジュなのであまり圧迫感はない。四つの滝を越えると、コロシアムのように周囲を岩壁に囲まれた大きな釜が現われ、右手に18M2段のヒョングリ滝が岩壁を穿って勢いよく水を噴出している。釜の流れ出し付近から左壁を登って壁上の草付に取り付き、釜を遠巻きにしながら斜上して樹林帯に取り付くとすぐに滝上に出た。

谷が右に屈曲すると見通しの良いV字谷になる

ここでまた開けるが、少し進むとまたゴルジュになる。8Mと3Mの滝を越えると流れは右へと方向を変え、遥か上流のV字峡の側壁を見通せるようになる。720M付近の屈曲点だ。ここから下ノ小俣沢出合の少し先までゴーロが続く。ゴーロの途中で久しぶりにナラタケの群生に出合う。沢のキノコの代表格ともいえるのに、このところ古くなったのが2~3本出てるくらいのものしか目にしてなかった。朝晩のおかず用にラーメンの空き袋に入るくらいを採取した。

下ノ小俣沢を過ぎると再び滝が続く

下ノ小俣沢を過ぎると、ゴーロの中に巨岩によって形成されているような5M前後の滝が断続する。視界いっぱいに広がる壁の上から水流を三つに分けて落とす12M滝を、右側の斜上バンドを伝って登ると流れは左へと向きを変える。次の8M滝は右のルンゼから高巻いて潅木交じりの草付をトラバースして沢床に戻り、3Mと6M2段の滝を越えると、真っ直ぐに伸びるゴーロが続く。しかし真っ直ぐに伸びているのは枝沢で、本流は左側壁に20Mの滝を懸けて屈曲している。

真っ直ぐ続くゴーロの左壁から20M大滝が降り注ぐ

大滝は下流側から見たとき左壁を登れそうに見えたが、正面に来て見ると上部のホールドが遠くて登れそうもない。出合を通り過ぎて少し枝沢に入った辺りから、本流左岸のブッシュ交じりの壁を登って大滝の高巻きにかかる。木の生え方がいやらしく、樹林帯に取り付くまでにちょとてこずった。落口付近に向けて下降していくと、少し先に難しそうな7Mくらいの滝が見えたので、一旦降りて再び高巻くのも面倒に思って、先に見えている三つの滝をまとめて巻くことにする。樹林帯を登り返し、小尾根を進んで右手の斜面の斜度が少し緩くなった辺りでトラバースを始めて、最後は草付を懸垂下降して沢床に戻った。

ここからは幕場適地を探しながら進むが、なかなか平坦なところが見つからず、1155Mの二俣の少し斜度のある草地にテントを張った。

昼間ははっきりしない天気が続いたが、夜になってようやく晴れ渡り、満点の星空となった。

14日:

朝5時頃、陽の明かりが月の明かりにとって替わり始める。ナラタケの味噌汁で早めの朝食を摂って、6時半に幕場を出発した。

何処となく大滝と似ている18M滝

すぐに5M滝となるが、難なく左側を巻気味に越える。河原を歩き左へカーブしていくと、18Mの大滝が行く手を遮る。右側には枝沢も水流を平行させて滝を懸けている。右側を斜上するように登って枝沢を跨いで落口に立つのが比較的簡単そうに見えたが、左側の白い壁を登ってみることにする。取り付いてみるとやや外傾している上に小石が乗ってちょっと悪い。岩壁を登りきり、上部は落口に向かって草付をトラバースした。

ここまで来るとだいぶ源頭の雰囲気が濃くなってきて、3Mクラスの滝やナメが現われる。奥の二俣(1370M)は(2:3)で右又が本流と思われるが、頼母木山に詰め上がる左又へ進む。3Mクラスの滝を二つ越えると8M2段の滝が懸かる。遠目から見える右側の白い小さなスラブ壁が印象的だ。

8M2段を越えると流れは(2:3)で二分しており、今度は右へ進む。すぐに4M滝が懸かっており、右側壁のバンドを斜上して滝身に取り付くが、ホールドが水流寄りにしかなく半身シャワーを浴びることになってしまった。

朝日降注ぐ中頼母木山僅か南東に詰め上がった

少しボサを被ってくるが、やがて草原となる。源頭は湧水なので、ここを過ぎるとぱったりと水は枯れる。窪が薄れて来る頃には登山道も確認できるようになり、膝辺りまでの笹原を突っ切ると間もなく登山道に出た。頼母木山山頂まで5分弱のところだった。

頼母木小屋に差し掛かると、小屋の管理を委託されている地元山岳会の人たちが集まって、小屋仕舞をしているところだった。ここで会の方と、胎内川流域の沢の話など楽しい話をさせていただいた。是非またお会いしたいものである。最後は、お決まりになったという感がある足ノ松尾根を下山して奥胎内ヒュッテへ戻った。ヒュッテで入浴させていただいたが、前々日宿泊したので無料でよいとのこと。タクシーも呼んでいただいた。

 

遡行図

山行最終日:2013年10月14日
メンバー:長島
山域: 飯豊連峰 胎内川
山行形態: 沢登り
コースタイム:
13日:足ノ松登山口(6:30)-小俣沢出合(11:05)-下ノ小俣沢出合(14:05)-二俣1155M(17:00)
14日:二俣(6:30)-奥の二俣(7:35)-頼母木山(9:05)-奥胎内ヒュッテ(12:05)
地形図:えぶり差岳・二王子岳
報告者:長島